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関東大学ジュニア選手権決勝戦

関東大学ジュニア選手権決勝戦

2011/12/12

優勝に半歩届かずも、多くの学びを得た好ゲーム


12月11日(日)・秩父宮ラグビー場


●帝京大学 22-26 慶應義塾大学○

《帝京》
1猿渡⇒出渕 2森川 3西村⇒佐藤 4小瀧⇒木下 5今村 6小山田 7成合⇒泉 8大和田 9天野 
10中村(有)⇒朴 11池上 12荒井 13太田 14徳富⇒ゴン 15小野

《慶應》※先発のみ
1小田 2渡辺(祐) 3山田 4南 5遠藤 6茂木 7伊藤 8明本 9渡辺(諒) 10柴田(浩) 11武藤 
12柴田(ク) 13中村 14位田 15浦野

いよいよやって来たジュニア選手権決勝戦の相手は、カテゴリー1のリーグ戦で一度敗れている慶應義塾大学。ジュニア選手権初優勝を狙う帝京としては、リベンジを果たし、大学選手権に向けて弾みをつけたい。また、Bチームの選手たちにとっては、大学選手権へのアピールの場でもある。各選手とも、自らの強みをしっかりと出し切りたいところだ。


【前半戦】
秩父宮という大舞台の緊張感からか、立ち上がりから、やや攻め込まれる展開となった帝京。だが、この日、再三にわたって好タックルを見せたPR西村を筆頭に相手の攻撃をくい止める。しかし、開始5分、キック処理でミスが出ると、こぼれ球を拾われ、そのまま走られて先制トライを許してしまう。

その後、FWが前に出てチャンスを作るも、仕留めるまでには至らない。帝京は守ってもディフェンスの素早い出足でボールを奪い、BK展開でWTB徳富にわたるも、あと一歩が届かない。だが選手たちはスタンドと一体となり、果敢に積極的に前向きな姿勢崩さない。

18分には、ラインアウトから素早く展開され失点するも、気持ちを切らさず攻め上がる。

ここからいよいよ帝京が反撃に出る。
FL成合は振り返る。
「修正して、FWから自分たちの流れにしようと話していました。このあと、前半に関しては、スクラムを起点にして流れを持ってこられたと思います」

その言葉どおり、その後はまずはFWが主導権を握り始める。サイド攻撃でLO小瀧、PR猿渡らが力強く前に出る。ラインアウトからはモールで押し込み、HO森川が抜け出す。惜しくもグラウンディングできずにキャリーバックとなるが、徐々に流れをたぐり寄せ始める。

得点シーンは25分。スクラムでプレッシャーをかけ、相手コラプシングを誘うと、再度スクラムを選択。しっかりスクラムを押し切ったところで、No8大和田が飛び込んでトライを奪う(5-14)。

完全に流れを自分たちのものにした帝京は、さらにFW、BKともに出足のいいディフェンスでテンポをも作る。攻撃に転じれば、FWでの連続攻撃でプレッシャーをかけることで相手ディフェンスにも隙ができる。そこを見逃さずにSH天野はSO中村(有)へパス。この日も秀逸のアタックを見せた中村はパスと見せかけ、自ら仕掛ける。そのまま抜け出してトライを追加。

中村は冷静に振り返る。
「SOという攻撃の起点として、自分の前があいたら仕掛けて出て、相手に脅威を感じさせる存在になれるようにということを常に意識しています」

このまま前半を終了。12-14で折り返すこととなる。

序盤は相手のペースで試合が進んだが、中盤以降はFWでプレッシャーをかけ続けることによってリズムをつかんで盛り返した。この修正力はここまで6試合を戦い抜いてきた、このチームならではの魅力ではないか。後半も我慢するところは我慢しつつ、どこまで自分たちのペースでプレーできるかが勝負所になりそうだ。


【後半戦】
後半が再開。慶應は序盤からエンジン全開で向かってきた。いきなりピンチの局面を迎える。帝京はBKに展開するも、相手ディフェンスにつかまり、ボールをファンブル、そのまま走られて失点してしまう。

だが、ここからが帝京ジュニアの真価の発揮どころだ。ハイパントの多い相手に対して、WTB池上、徳富らがしっかりとキック処理・キックチェイスに走る。

池上は「チェイスはいままで練習でずっとやってきているので、そこだけはしっかりやっていこうと思っていました」と振り返る。

徐々に精神的に上回る帝京はペナルティキックを得ると、距離のある位置ながらゴールを狙う。ここをFB小野が落ち着いて決め3点を追加する(15-21)。

その後は一進一退。SH天野が得意のタックルで相手のサイド攻撃を阻止する。中村は再度自ら仕掛けて前進を図るも、パスがつながらず、決定機にまでは至らない。

ここで帝京はもう一度、FWでのこだわりを確認する。サイドアタック、モールの連続攻撃を見せて前進。ここでは仕留め切れないが、それでもFW攻撃へのこだわりに揺るぎはない。ラインアウトのボールをLO今村が巧みにキャッチし、モールに。何度か組み直すも、最後までモールにこだわり、最後はPR猿渡がトライ。22-21と逆転に成功。

その後も意地をぶつけ合う両チーム。22-26で迎えた残り10分。いや15分を越える攻防は、スタンドの観衆を大いに沸かせることになる。帝京が出足のいいディフェンスで相手を止め、ターンオーバー。そこからFWが連続してサイド攻撃を仕掛ける。

攻める帝京、守る慶應。4点差ゆえ、トライで即逆転。帝京FWが全力で当たり、相手ディフェンスも低く守る。じりじりと前に出る帝京。FWがかたまりとなって前に出てゴールラインを越えるも、グラウンディングできずにキャリーバック。帝京ボールのスクラムから、再度、FWでのサイド攻撃となる。

相手のオフサイドでスクラムを選択。レフェリーからはラストワンプレーの声。帝京はFWでの連続サイド攻撃を見せる。前に出ては止められ、前に出ては止められるの連続ながら、少しずつ着実に前進を図る。そして、ついにゴールラインを越えたかに見えたが、またしてもグラウンディングが認められずにキャリーバックでノーサイド。

ジュニア選手権初優勝まで、あと数センチが届かなかったが、最後の最後まで見応えのある死闘を繰り広げた両チームに対して、スタンドからは大きな拍手が送られた。胸を張ってピッチを後にした両校44名の選手たちに敬意を表したい。



《試合後のインタビュー》

■岩出雅之監督
「今日のゲームは選手たちにとって、いろいろな意味でとてもいい経験になったと思います。『いろいろな意味で』というのは、人生観としての大きな考え方と、目の前の大学選手権に向けてという考え方とで、重なってくる部分と分けて考えた方がいい部分があるということです。
人生観としては、人生というのは勝つこともあれば負けることもあるわけですから、負けたときにその負けに対してどのように向き合うか。勝ったときの笑顔というのは出しやすいですが、負けたときの顔も大事です。難しいことなので、今日、すぐにできなくてもいいですから、生き方といいますか、負けや苦しいときに対する対応の力や仕方というものを学んでくれたらと思っています。目前の大学選手権に関しては、この悔しさをエネルギーに還元して、少しでも時間を有効に生かして、大会に臨むためのいい準備の糧にしてくれることを期待しています。
プレーに関しては、いいプレーもあり、まだまだ精度を上げられる部分、今日はうまくいかなかった部分、あるいは相手に流れを渡してしまうようなプレーもありました。本人たちはわかっているはずですから、いい反省材料にして、頑張ってくれると思っています。
私としては、大学選手権に向けて期待する選手もたくさんいますし、部員全員が相手の喜ぶ姿を見て発奮し、それぞれのエネルギーをいい形に集約できるよう、これからの4試合に向けて、うまく彼らをリズムに乗せていきたいと思っています。ファンの皆様には大学選手権での選手たちのプレーに期待頂き変わらぬご声援をお願いいたします。最後に今日は、両チームともによく頑張りました。その上で、勝利した慶應フィフティーンに敬意を表し、ジュニア選手権優勝をお祝いいたします。」

■ゲームキャプテン・SO中村有志(4年)


「ジュニア選手権初優勝がかかっていたのですが、負けてしまって悔しいです。慶應大学さんはプレッシャーが速いとわかっていたので、キックで前に出て、FWで勝負ということを基本に、戦いに臨んだのですが、ボールコントロールの部分で、序盤に少し無理にBKに展開してしまったところがありました。そこからカウンター攻撃にあうというシーンがあったので、すばやく状況判断してキックにもっていくべきだったと反省しています。この悔しさをエネルギーに変えて、自分の中にあるスイッチをもう一度しっかりとオンにして、選手権に臨みたいと思っています。」


■4年生として80分間チームをリードした・LO小山田岳(4年)


「後半、西村、中村有志、成合と抜けていって、4年生では自分だけが80分間出ることになったので、しっかりみんなを引っ張っていこうと思ってやっていました。自分としては声とプレーで引っ張っていったつもりですが、結果を出すことができなかったことは4年生としての自分の力不足を感じます。今日の敗戦を糧に、必ず国立の決勝の舞台に立って優勝メンバーの一員になれるよう、頑張って練習していきたいです。まずは福岡工大戦に出られるように、来週一週間、しっかり練習して、そこから勢いに乗っていきたいと思っています。」


■タックルやボールへの絡みでFWを引っ張った・FL成合哲史(4年)


「今日はこれまで1年間やってきたことを出し切ろうと言って臨みました。いいところもありましたが、悪いところも出てしまい、悔しい結果になってしまいました。今日は負けてしまいましたが、来週から大学選手権が始まるので、全員が一丸となっていい結果を残せるようにしっかりまとまってやっていきたいです。そのためには、4年生のまとまりが大事になってくると思うので、しっかりリーダーシップを発揮して、4年生としてチームをまとめられるように心がけたいと思います。」


■献身的なキックチェイスを見せ続けた・WTB池上貴章(4年)


「今日は、ディフェンスとブレイクダウンで圧倒するということをテーマにして臨んだのですが、ディフェンスの部分で何度かミスが出てしまい、それが失点につながってしまいました。ハーフタイムで修正して、よくなった部分もあったのですが、相手のディフェンスもよく、そこから失点してしまいました。慶應さんのディフェンスが前に出てくることはわかっていたので、ラインを深く敷くなどの対策を立てたのですが、それでも修正し切れなかったのは残念です。大学選手権に向けては、ディフェンスでまずはしっかりファーストタックルを決められるように、そして、ボールをもらったら走り切ってトライを取り切れるように、練習からしっかり取り組んでいきたいです。」


■最後のFW戦で死闘を繰り広げた・PR佐藤啓示(4年)


「自分の強みであるスクラムを絶対に押そうと思って臨みました。スクラムはすべての場面で優位に立っていたと思いますが、8人で押すという部分で今まで練習してきたことが出し切れませんでした。また、FWでのコミュニケーションのところでのミスもあり、最後に取りきれなくて、そこは次への課題だと思っています。先週の対抗戦(筑波大学戦)に出場したことで、今日は気持ちの面ではかなり楽に入れました。アップのときから、少しゆとりがありましたし、セットプレーは全部安定して組むことができました。今日の経験を生かして、もっと自分の力を磨いて、大学選手権に出られるように頑張っていきます。」


■後半、ディフェンスの要として出場した・WTBゴン・ジョンヒョク(4年)


「途中出場でしたが、入るときは自分からバンバン、しぶとくタックルに行こうと思って、また自分が持っているものを全部出し切ろうと思っていました。結果的に負けてしまってすごく悔しいです。この悔しさを忘れずに、一日一日を大切にして大学選手権に向けて頑張って練習していきたいです。」


■視界の先はすでに大学選手権へ・チームキャプテン森田佳寿(4年)


「帝京大学の試合を秩父宮のスタンドで見るというのは、不思議な感じがしました。今日はセットプレーや接点などではひけを取ってはいなかったのですが、キックボールの処理やスコアリングポジションで取り切れなかったことなど、少しずつミスしてしまったところに、慶應大学さんに速くリアクションされてしまいました。負けたことに関してはすごく悔しいのですが、対抗戦全勝で来た中、気持ちを引き締めることができたと前向きに捉えて、選手権に向けてしっかり準備していきたいと思います。ジュニアチームの頑張りや想いは自分たちも感じるものがすごくありましたし、ここからは全部員が一体となって最後の目標に向かっていくだけです」

《PICK UP PLAYERS》

大学選手権に向け、闘争心に火をつける
PR 西村尚記(4年生)



NISHIMURA NAOKI
1989年11月29日生まれ
医療技術学部スポーツ医療学科
京都成章高校出身
身長178㎝/体重117㎏/血液型A型

■今日の試合を振り返って、感想を聞かせてください。
「全体的にはよかったと思うのですが、前半も後半も、簡単に点を取られてしまったので、そういう部分は自分たちの甘さであり、やるべきことができていなかった部分があって、こういう結果になってしまったのだと思います。」

■今日はスクラムに関してはどうだったのでしょうか。
「ちょっと落ちる場面が多かったですね。崩さないように注意していたのですが、どうしても落ちてしまう場面がありました。」

■相手の1番とともにレフリーに声を掛けられていましたが、どんなことを言われていたのでしょうか。
「『お互いに崩さないように』と。相手もやや落ち気味でしたし、自分もそれに付き合うような形になってしまいました。そこは修正したいです。」

■今日、個人的に良かった部分はどんなところでしょうか。
「まだまだですが、ディフェンスをある程度できたところでしょうか。」

■ピンチになりそうな場面を未然に防ぐいいタックルがありました。
「(笑顔で)ありがとうございます。今日は自分なりには少しは行けていたかなと思います。」

■西村君は昨年度の優勝メンバーでもあり、大学選手権ではその力が必要とされる場面がきっと来るかと思います。大学選手権に向けて意気込みを聞かせてください。
「去年、Aチームとして出ていたメンバーとして、今、出られないのは反省すべき点、改善すべき点があるということだと思っています。そこはしっかり改善して、大学選手権4試合に出られるように、これまで同様、これまで以上に、あと4週間、死ぬ気で努力していきたいです。」

■大学選手権に出たとき、どんなプレーを見せたいですか。
「まずはセットプレーをしっかり安定させること。そして、ディフェンスの部分。タックルと、ブレイクダウンでしっかり激しく入っていくというところを見せたいです。」

昨年度はFWの柱の一人として、大学選手権決勝でもスターティングメンバーに名を列ねた西村だが、今年度は対抗戦での出場機会はなかった。だが、ここにきて力強さが復活してきた感がある。経験値という部分も含めて、大学選手権に向けて貴重な戦力となってくれることを願う人は多いはず。スクラムでの安定感やタックルは実証済み。大学選手権に向けて、内に秘める闘争心をどれだけ表現できるか。彼の復調で帝京FWはさらなる成長を見せるはずだ。

《NEXT MATCH PREVIEW》

【12月18日(日)全国大学選手権大会一回戦 VS福岡工業大学 レベルファイブスタジアム 14時キックオフ】

いよいよ3連覇をかけた大学選手権が開幕する。一回戦の相手は福岡工業大学。大学選手権出場20回は、帝京の19回を上回る古豪校だ。一回戦突破の壁が厚い九州勢だが、帝京としては相手いかんに関わらず、自分たちのラグビーをするだけだ。なお、試合会場は福岡のレベルファイブスタジアム。対戦相手の地元だけに、アウェイの状況を回避するためにもぜひ多くの方に会場で、またTV等での応援をお願いしたい。ここから先はノックダウン・トーナメント。赤い服を身に着けてスタンドから精一杯の力を選手たちに送って欲しい。

(文/木村俊太、写真/川本聖哉)

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