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帝京大学ラグビー部の新たなる挑戦 『大切にしたいこと。選手たちに願うこと』

帝京大学ラグビー部の新たなる挑戦 『大切にしたいこと。選手たちに願うこと』

2012/10/12

2012~2013シーズン
岩出雅之監督インタビュー

帝京大学ラグビー部の新たなる挑戦
『大切にしたいこと。選手たちに願うこと』




対抗戦を3試合戦い終えた帝京大学ラグビー部。
どうしても“四連覇”へのチャレンジばかりが気になるが、岩出雅之監督の最も大切にしたいことは少し違うようだ。
夏合宿でのキャプテンの成長。今後のシーズンを見据えた視線。
そしてチームとして大切にしたいこと、部員たちに期待したいこと。

指揮官の本音に迫った。




【前向きに悩め!】

帝京大学ラグビー部の夏合宿は、8月中旬から同じ場所で約2週間。
私はこの日程を聞いた時、ただただ驚いた。長い。
他の競技では考えられないような長さだ。
場所は長野県菅平。ラグビーを知らない人にはピンとこない地名だが、そこはラグビー部員たちの聖地だった。空は青く、雲は落っこちてきそうな入道雲、空気のおいしい大自然が広がっていた。
そこでは早朝から、選手たちのたくましい元気な声が飛び交う。
各ランクにチーム分けをして練習をする。レギュラーが中心を担うA・Bチームはもちろんのこと、C・Dチームの元気の良さにはとてつもなく力強い向上心を感じた。
選手、そして監督はこの2週間で何を感じとったのだろう。
そして...9月某日。いつものグラウンドに選手たちの姿があった。
相変わらず、活気のある練習風景だ。監督は夏合宿について、こう語り始めてくれた。
「夏合宿というプロセスを一つ一つしっかりとおさえて積み上げる事ができました。しかし前進はしているがまだまだ達成していない部分もあります。」
一見、シンプルに聞こえる言葉。そのなかには様々な角度から選手、チーム全体を広い視野で見る監督の思いが隠されていた。



■岩出雅之監督
『夏合宿の一番の成果は、キャプテンを中心に、これからの踏ん張りが必要になってくる場面・試合に向けて、いい意味で自信となる練習とゲームができたことです。特に最終戦はキャプテンのための試合になったのではないでしょうか。
練習や試合には様々なシチュエーションがあります。リーダーはそれぞれの局面のなかで目的などをしっかりと抑え、リーダーシップを発揮できる考えや立ち振る舞い等、、ポジティブな力強さを求められます。プレーヤーとしても、またチームの精神的な部分でもしっかり判断をしていく。そういうところをキャプテンとして、泉もしっかり整理できたのではないでしょうか。整理できてすぐに実力がついたのではなく、これからしっかりと一日一日積み上げながら、より本物になってくればそれで良います。
 彼は今シーズンのキャプテンでもありますが将来、社会人になってもリーダーシップを発揮できる選手です。今は、そんなに目の前のことに一喜一憂せず、ドシッとしながらやってほしいと思います。

  反面、悩むことも悪くはない。一生懸命、前向きに悩んでそこで自分の知らなかったことや解決できないことに気付かされ、どうすれば良いかということを思考して悩めば良いと思います。人はすぐ簡単に答えが出ることには悩みません。答えが出ないことに直面した時にそれから逃げずに、悪戦苦闘することによって悩みは逆に次への力強さを生むきっかけとなってきます。本当に肝心な時(対抗戦の佳境や大学選手権)に彼が悩む状態にあった時は、「そういう時じゃないぞ」と、その不必要性を彼にアドバイスをするつもりです。
  夏合宿は特に悩んでも良いのではないかと思っていました。今まで経験していないこと、やるべきことが多い中で壁にぶつかることは多かったはずです。そこで自身が何をすべきか考えて整理する上で、すぐ整理できないことが多かったのではないでしょうか。それで思考は鍛えられます』




【努力の期間】

  9月9日から始まった関東大学対抗戦は3連勝でここまできている。次に行われる10月21日の慶應義塾大学との対戦を皮切りに繰り広げられる後半戦。ここからの一ヶ月半の戦いは、より濃いものとなるだろう。
  選手たちは一体どのような戦いを見せてくれるのだろうか、そして監督の描く戦いとは。



■岩出雅之監督
『ここまで出てきた課題、良くなっている部分をちゃんと抑えながらチームとしてものにしていきたいと思います。数名や15人だけのものにするのではなく、誰が出てもやるべきことをこなせるようになることを念頭に置いて、積み上げていくつもりです。試合に出る22人プラス、何人が同じレベルでできるか、表舞台の対抗戦とは違う、裏舞台の大学での練習でしっかり高めたいと思います。
そのなかで試合に出る選手が積み上げてきたものを体現させていく、そういう繰り返しで本当の力を見極めていきたい。最初から選手を絞り込むのではなく、全員にそういう意識付け、チャンスを与えながら序盤~中盤を全力で戦っていきます。
  対抗戦の後半、我々がどのようなチームに変貌するか、その鍵がこの1ヶ月半に隠されていると思います。そこをしっかりと選手自身に自覚をさせて、攻守に渡って厳しく正確さを伴ったチーム作りをしていきたいと思います。対抗戦という本気の本番のなかで選手一人一人が自分の力を出し切り、チームとして完成図を描きながら進んでいきたい。
ただ、その時その時のコンディションがありますから、ベストな答えが出なくても悲観せず、しかし努力は怠らず、特に後半の一ヶ月半の戦いは、さらなる努力の期間にしていくつもりです』




【それぞれの役割】

 ラグビー部に所属する選手は総勢146人。いうまでもない大所帯だ。
監督は練習中、選手一人一人に目を向け、個々にアドバイスをしている。同じポジションの選手でもかける言葉は様々だ。
ラグビーは団体競技。その団体のなかで選手たちは切磋琢磨し、互いを高め合っている。
帝京大学大学ラグビー部に入部して半年が経った1年生。4年目のシーズンが始まった最上級生の4年生。そして、確実に力をつけてきている2、3年生。上級生と下級生の関係はどのように保たれているのだろうか。監督はその姿を次のように見据えている。



■岩出雅之監督
  『ウチは飛び抜けている選手はいないです。いないですがみんなが少しずつ確実に成長しています。全員の取り組む姿勢、少しでも前に行こうという姿勢は、今年はとても良く、去年おととしのチームよりも上にいっています。
個々の選手がずば抜けて出ているのは、周りがあまり成長していないと見えやすいものです。10人いて1人が頑張って、あとの9人が頑張っていなかったら、頑張った1人は、凄く目立ち、凄く頑張って見えます。これは、比較によって生まれる頑張りです。
逆にみんなが頑張れば、目立ちにくいです。私は、そういう発想で見ています。一人飛び抜けて頑張ったな、という選手がいなくても良い。みんながちゃんと手を抜かず、基準を高く持ってやっている姿が大切です。逆にこういう状態だから手を抜いている選手は、すぐに目立ちます。
選手全員には、周囲から頼られ信頼される、そして実力を常に発揮できる、そんな選手になってもらいたい。
強いて挙げるのなら、1年生、2年生で今シーズン主に出ようとしている選手たちには、より注目しています。その選手たちには本番(試合)までに「良いコンディションを作るための努力」をしてもらいたい。そこが一番大事だと思っています。
1年生は、特に多くのことはできないし、まだまだ本当の厳しさを知らないところもあります。余分なことに惑わされたり潰されたりすることなく、怪我をせず、シーズンを通して良い経験を積み上げていく事が1年生の役目と思います。良いコンディションを維持して、出続けられるように頑張ってほしいですね。
  上級生にはそういう1年生をいい意味で背負ってあげる、精神的にも肉体的にもチームを支える力強さに期待しています。役割の違い、出番の違いを意識しながらシーズンではチームの軸になってもらいたい。
そういう風に成長しつつあるのが、李聖彰、中村亮土、竹田宜純です。この3人は下級生時に先輩たちに支えられながら多くの経験をし、たくましさを発揮しています。同じように今年の1年生、2年生にもいい経験をさせてあげ、来年そしてその先にも繋がるようにしていきたい。
  また今年の4年生の特徴は、仲が良いということです。とてもまとまりがあります。そのチームワークの良さを繋がりの太さに変え、厳しいことにお互いが身を張っていく、そういう集団になってくれれば良いと思います。苦しいこと・面倒なことを厭わないで、力強さ・粘り強さ・しぶとさ...色んなことの土台を彼らがチームの土台として作ってくれれば良いと思います。
その空気を泉キャプテンが方向付けてくれればいい。しかし、それらをキャプテン一人が背負うのでなく4年生みんがやれているのでとてもいいチームになりつつあると思います。
今後も温かくそして長い目で、帝京大学ラグビー部にご期待いただければと思います。』





【No Side!!~取材後記~】
私が帝京大学ラグビー部と出会って一ヶ月半が経ちました。正直、ラグビーのルールは全く知りませんでした。
見慣れないグラウンドに足を踏み入れた時の部員の多さに衝撃を得ました。私が経験した柔道部では考えられないような、学生の多さとパワーに圧倒されてしまいました。強さには自信がある私ですが、選手の皆さんのあまりのたくましさに少し、怯えている自分がいました。

そして、監督と初めてお話しさせていただき、私は、自分の向上心の低さに反省させられました。監督の話についていくのがやっとの状態でした。
練習が始まると、そこは未知の世界でした。さすがに道場でもこんな大きな声は、飛び交いません。
一人一人の目の力、練習への姿勢に心の中は『拍手喝采!』。

その日は、心の中がお腹いっぱいになって帰ったのを覚えています。
そこからは、毎回練習を見させていただくたび、岩出監督や選手、そしてスタッフの皆さんとお話をさせていただくたびに、考えさせられる事が楽しくて仕方がありません。私は今「帝京大学ラグビー部と共に強くなっていきたい。」そう強く思っています。

2012年のシーズン、帝京大学ラグビー部から目が離せません。




[ライター・プロフィール]

あいすけ(青木愛)
よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属
神奈川県平塚市出身。
中学1年から柔道を始める。元全柔連強化指定選手、弍段。
現在、「近代柔道」誌連載エッセイ『一本笑負』ほか、執筆活動を展開中。
また、大学3年からNSC東京に通い現在は芸歴4年目。

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